日本語で読める統計学史に関する書籍(途中:日本の統計学史に関するものは省いています.)

取り急ぎ,日本語で読める統計学史に関する書籍を,いくつか紹介します.

  • 統計学史の専門家が書いた専門書だけではなく,軽めの啓蒙書や伝記も含めます.
  • 書籍だけを挙げることにして,論文は取り上げません.
  • 翻訳書や廃版になっている書籍も取り上げます.

現在(1月31日段階)では,日本の統計学史に関する書記は挙げていません.

 

統計学史をはじめとして史学の正式な教育を私は受けておらず,趣味の範囲を超えないので,全然,網羅しきれていないと思われます.また,以下で取り上げるのは,日本語で書かれた書籍のみです.

皆さんのお勧めの書籍があれば,Twitterアカウントの@BluesNoNoまで教えてください.

 

統計学自体もあまり知らない方向けの軽めの読み物

  • Salsburg, D.S.[著], 竹内惠行・熊谷悦生[翻訳](2006:翻訳書)『統計学を拓いた異才たち』日本経済新聞出版(2010年に文庫化,原題 The lady tasting tea)

英語原著ではなく,日本語訳のほうを読むことを私は強く薦めます.また,まずは日本語の訳者あとがきを読むことを強く薦めます.大塚淳(2020)『統計学を哲学する』での同書に対する注意も読むことも薦めます.統計家によって書かれたものであり,統計学史家によって書かれたものではありません.統計業界で統計学の歴史がどのように語り継がれているかを知るための一冊だと思われます.

朝日新聞の記事にて,社会学者の佐藤俊樹先生によっても,統計学を勉強し始めるときの本として推奨されていました.また,2006年に,日本統計学会の75周年記念推薦図書の一冊に選ばれています.ただし,上記の大塚(2020)でも指摘されていますが,後述するPoter先生によって,かなり強く事実誤認を指摘されています.また,他にも,私が知る限り2つの書評にていくつか事実誤認を指摘されています.

 

  • McGrayne, S.B.[著], 富永星[翻訳](2013:翻訳書)『異端の統計学ベイズ』(原題 The theory that would not die)

私自身は,<著者が勝手に,統計家をベイズか非ベイズかに分類しているのではないか?>という疑問が晴れず,「ベイズ」 vs 「非ベイズ」の対立を大袈裟に描写しすぎではないかと感じています.ただ,インフォーマルなインタビューを数多く行なって,論文からだけでは感じ取れない統計家たちの日常での考えを垣間見れます.

 

いくつかのトピックに関する雑談を述べているものですが,統計学の歴史的出来事についても触れています.(私は,この本で,Fisherは紅茶実験の例をどこからもってきたのかについて,3つの説があることを知りました.)

 

英語圏統計学史家によって書かれた一般書の翻訳

(この節は,2022/2/6に追記しました.)

 

英語圏統計学史家が書いた(統計学をある程度は知っている)一般向けの本として以下の2冊があり,日本語にもすでに翻訳されています.

 

Karl Pearsonの研究で有名な統計学史家であるEileen Magnello先生の本は,日本語に翻訳されており,ブルーバックスシリーズから出版されています.

  • Magnello, E.[文]Loon, B. V.[絵]神永正博[監訳]井口耕二[訳](2010:翻訳)『ブルーバックス マンガ統計学入門:学びたい人のための最短コース』講談社

同翻訳書において個人的に翻訳で気になったところ(非常に細かい点)は,以下のブログ記事にて取り上げました.

マグネロ[文]ルーン[絵]『マンガ 統計学入門』日本語訳で個人的にほんの少しだけ気になった点 - Tarotanのブログ

統計学史をこれから学びたい方で,特にイギリスの20世紀前後の近代統計学に興味がある方には,強くおすすめします.

 

統計学史の第一人者であるStephen M. Stigler先生の本も一冊,翻訳されています.

  • Stigler, S. M. [著]森谷博之・熊谷善彰・山田隆志[訳](2017:翻訳)『統計学の7原則:人びとが築いた知恵の支柱』パンローリング

同翻訳書において個人的に翻訳で気になったところ(非常に細かい点)は,以下のブログ記事にて取り上げました.

スティグラー著『統計学の7原則』日本語訳で個人的にほんの少しだけ気になった点 - Tarotanのブログ

読むのには,ある程度は統計学の知識(4年生大学の学部生ぐらいの知識か?)が要求されます.現在でもよく使われている統計学の考え方や手法が,どこからやってきたのか,その歴史が概観されています.

 

安藤洋美先生の著作

もしも,20世紀初頭のイギリス数理統計学の流れに興味があり,ある程度,学部生3年ぐらいの初等数理統計学の知識があるのであれば,次の2冊をお勧めしたいです.

  • 安藤洋美(1997)『多変量解析の歴史』 現代数学社
  • 安藤洋美(1989)『統計学けんか物語:カール・ピアソン一代記』 海鳴社

安藤洋美先生は,次のような書籍も出されています.

また,いまや,この書自体が歴史的史料となっていると思いますが,次のような確率論史の本も翻訳しています(これ以外にも,後述するNeymanの伝記も翻訳しています.)

  • 安藤洋美[訳]Todhunter, I.(2002:翻訳 改訂版)『確率論史』 現代数学社(原書:History of the Mathenmatical Theory of Probability

日本の統計学者が書いた統計学史書

竹内啓先生が,以下のような本を書かれています.

  • 竹内啓(2018)『歴史と統計学』日本経済出版

同書は,2019年に第12回日本統計学会出版賞を受賞しています.

 

伝記や自伝

NeymanやGaltonには,日本語で書かれた書籍としては,次のような伝記・自伝・回想論があります.NeymanやGaltonを知らなければ,まったく面白くないでしょう.

  • [Neyman, J.] Reid, J.[著]安藤洋美・長岡一夫・門脇光也・岸吉堯[訳](1985: 翻訳)『数理統計学者 ネイマンの生涯』現代数学社(原題:Neyman: from life.あくまで個人的な感想ですが,少し訳が迷走しているところがあるかもしれません)
  • [Galton, F.] 岡本春一(1987)『フランシス・ゴールトンの研究』ナカニシヤ出版(あくまで個人的な感想ですが,批判的に書かれていないのに私はかなり驚きました.素直には読めないかもしれません.)

 

やや難しめの統計学史の専門書

統計学史の専門書として,個人的にお勧めしたいのは,次の翻訳書です.

  • 長屋正勝・木村和範・近昭夫・杉森滉一[訳]Porter, T.M.[著](1986:翻訳)『統計学と社会認識:統計思想の発展 1820-1900年』梓出版(原題:The Rise of Statistical Thinking 1820-1900)

20世紀初頭のイギリス統計学など,近代統計学の中心的な統計思考である「集団的思考(population thinking)」がどのように推移したかを追った書籍となっています.

私なりに敷衍すると,「集団的思考」とは,<個々の個体の振る舞いはランダムで規則性がないけれど,集団単位で見ると何かしらの規則性が見えるかもしれない>という前提にて,出来事を捉える思考方法だと思います.この「集団的思考」から派生して,"population" vs "sample"といった標本理論が展開されていったと思われます.

Galton-Karl Pearson-Fisherといったイギリス統計学がどのような流れから来ているのかを丹念に追っています.

数式は一切出てきません.ただ話が細かいのと,原文の英語自体が(私には)難しいのがあって,日本語でもやや読みにくいかもしれません.

私は未読なのですが,どうやら以下の本でも集団的思考に関連した話題は取り上げられており,また,すっきりとまとめられていて,読みやすいようです.

  • 池畑奈央子[監訳]柴田叔子・小林重裕・伊禮規与美[訳]原俊彦[監修]Rey, O.[著](2020:翻訳)『統計の歴史』原書房(原題:Quand le moonde s'est fait nombre)

Hacking先生が書いた統計学史関連の書籍として,以下の2冊が有名だと思います.

  •  石原英樹・重田園江[訳]Hacking, I.[著](1999:翻訳)『偶然を飼い慣らす』木鐸社
  • 広田すみれ・森元亮太[訳]Hacking. I.[著](2013:翻訳)『確率の出現』慶應義塾大学出版会

 

他にも,以下の写真のような,社会統計学系の方が書いた書籍もあります(後日,写真ではなくタイプいたします).

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あと,次のような書籍もあります(安藤洋美先生のは1冊,挙げるのを忘れていました).

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日本の統計学

歴史は,歴史そのものも重要ですが,誰が語っているのかも重要だと思われます.日本語の文献を読む場合には,日本の統計学史も知っておいた方が,より面白くなるかもしれません.後日,時間ができたときに,日本語で読める日本の統計学史についても,リストを挙げたいと思います.

 

(未完)