マグネロ[文]ルーン[絵]『マンガ 統計学入門』日本語訳で個人的にほんの少しだけ気になった点

このブログ記事の責任はすべて筆者個人(小野裕亮)だけにあります.所属組織は一切,関わっておらず,いかなる責任も負いません.

 

はじめに

マグネロ[文] ルーン[絵]神永正博[監訳]井口耕二[訳]『マンガ 統計学入門:学びたい人のための最短コース』は,Introducing ... シリーズにおける統計学入門書となっています.... for beginnersシリーズと同様,独特なタッチのイラストとともに,統計学史の立場から統計学が説明されています.

著者のEileen Magnello先生は,特にKarl Pearsonに関する研究の第一人者の一人であり,本書でも特に20世紀初頭の記述が充実しています.

かなり癖が強いかもしれませんが,初等統計学をかじった人で,そこで使われる統計量や手法がどんな歴史を持っているかに興味がある人には,おすすめしたい本です.かなりカジュアルな本であり,イラスト入りなので,読みやすいです.

日本の翻訳書は,ブルーバックスシリーズから出版されていることもあり,価格も非常にお手頃です.

このブログ記事では,同翻訳書において,個人的に少しだけ気になった箇所(非常に細かいこと)を3つ挙げます.

いくつか断っておきたい点があります.

  • 第1に,以下に述べることはあくまで個人的な好みの問題です.
  • 第2に,世間一般において,他人の「間違い」や「誤解」を指摘する人を見かけたら,まずは,その指摘している人(つまり,私)が間違いや誤解をしていることを疑うのが無難だと私は思っています.以下の記述のほとんどが間違っている可能性もあります.
  • 第3に,たとえ間違いがあったとしても,私ぐらいの英語力であれば,日本語翻訳を読むほうがはるかに頭に入ってきます.このような面白くて,かつ,癖のある本を翻訳してくださったことに,深く感謝します.
  • 第4に,私自身は,同書を翻訳できる技量を持ちあわていません.私が翻訳したら,一生終わらなかっただろうですし,訳せたとしても誤訳ばかりになっていたと思います.

以上の注意点に留意しながら,お読みください.

なお,初版第3刷をもとにしています.

 

個人的に気になった点

  • P.88「大衆の現象」となっているのは,原語では”mass phenomena”で「大量現象」が定訳だと思います.
  • P.89の「平均を使って度数分布を標準化し」は,「標準的な度数分布を導出する方法を考案することで」ぐらいの意味だと思います(原文の”means”は「平均」ではなく,「方法」や「手段」ぐらいの意味).
  • P.90の「[カール・]ピアソンが「正常群」という用語を代替するものとして「母集団」という言葉を導入し、1903年には母集団と標本の関係を明らかにしました」は,原文では[Karl Pearson] aligned population with sample in 1903”であり,「1903年には,「標本」(sample)と対比させて,「母集団」(population)という用語を使うようになりました」ぐらいの意味だと思います.ちなみに,余談ですが,統計学”population”という用語を持ち出したのは,Galton1877)が始まりだとするのが定説だと思います(それまで,人間の集団にしか使われていなかった”population”という用語を,Galton(1877)では,スイートピーの種の集まり(およびGaltonボードでの小粒 pellet の集合)を指すのに使いました.Galton(1877)でも”sample”という用語は登場しますが,本書の主張は,おそらく,現代的な意味になるまで綺麗に数理的に対比させたのはPearson(1903)とするのが妥当だ,ということだと思います.

以上です.

このような面白い本を日本語翻訳してくださった方々に深く感謝いたします.